あなたの香り

二〇〇七年の夏、人一倍健康に自信があった夫に肺癌が見つかりました。
 肺癌になってしまったことに戸惑い落ち込んでいた夫は、入院が決まると癌と向き合い闘い始め、とても癌患者だとは思えないほど元気で健康そうに見てきました。

 闘病生活が長くなり体力が落ちて、抗癌剤の副作用で髪も眉毛も抜けてしまうと、若作りだった顔が一気に老け込み、身体からは病人の匂いが漂い始めました。
 癌は容赦なく夫の身体を蝕ばみ広がっていきます。次第に歩く事も食事を摂る事も儘ならなくなり、寝たきりになってしまいました。

 夫は常に諦めることなく癌と闘い続けましたが、強烈な痛みには勝てずモルヒネを使うようになりました。痛みは抑えたもののほとんど眠ったままになり、二〇〇八年六月何にも言ってくれないまま息を引き取りました。

 自営業の夫と共に仕事をし、子育ても、遊びに行くのもいつも一緒、平凡で幸せな日々は二十年で終わりを告げました。
 日中は、様々な手続きに追われて気を張っていましたが、夜一人きりになると、夫がいない悲しみに涙が止めどもなく流れてきて、嗚咽をあげて泣く日が続きました。

 ある日、夫からのメッセージがどこかに残されているかもしれないと思い、手帳や机の中、パソコンも衣類も、夫の全ての物を調べました。しかし走り書きしたメモさえも見つかりません「なんにも言わないでこんなに早く逝っちゃって、手紙くらい残しておいてほしかったわ」私は呟きました。

 タンスの前に夫の衣類を広げまわし呆然と眺めているとまた涙が溢れてきました。
 私は思わず夫の衣類に顔を埋めました。すると、元気だった頃の夫の匂いが鼻の奥に広がり、心地よい香りとなって身体中に染み渡っていきました。

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